不法移民の強制送還に反対するデモを抑え込むために60年ぶりに派遣された州兵(6月9日ロサンゼルス市で、写真:ロイター/アフロ)

知事要請なき州兵派遣は60年、海兵隊派遣は33年ぶり

 米国のドナルド・トランプ大統領は6月9日、カリフォルニア州ロサンゼルス市で激化した不法移民取り締まり強化への抗議デモに対応するため、現役海兵隊員約700人を派遣した。

 すでに出動させた州兵に新たに2000人を追加投入、ロサンゼルスはさながら戦場と化した。

US Marines arrive in LA on Trump's orders amid immigration protests | Reuters

 トランプ大統領は、移民税関捜査局(ICE)などの連邦政府所有の建物・施設や連邦職員の安全確保のために軍隊を派遣した非常事態への対応だ、と説明している。

 米大統領が州知事の要請なく州兵を派遣したのは、リンドン・ジョンソン第36代大統領が、公民権活動家マーティン・ルーサー・キング牧師が率いるアラバマ州セルマの公民権行進参加者の保護を理由とした1965年以来。

 海兵隊は、1992年に州知事の要請を受けて暴動鎮圧のためロサンゼルスに派遣されている。33年ぶりの国内出動だ。

 トランプ大統領は、暴動が起きれば「反乱法」(Insurrection Act of 1807)の適用も視野に入れているという。 同法は「州の権限を尊重すること」を条件にしている。

 一方、米国には国内の治安維持のために陸軍、空軍、州兵を動員することを禁止する「ポッセ・コミタトゥス法」(Posse Comitatus Act of 1878)がある。

The Posse Comitatus Act Explained | Brennan Center for Justice

 カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事(民主党)はトランプ氏の連邦軍動員は違法行為だ、として連邦裁に提訴。

 不法移民や支持者による抗議活動の激化、連邦軍による鎮圧と並行して、大統領権限と州の権限をめぐる法廷闘争が同時進行する。

不法移民取り締まりに反対する知事は逮捕

 そうした中で、国境・移民送還政策を統括する強硬派のトム・ホーマン国境管理責任者が「ニューサム氏とロサンゼルス市のカレン・バス市長がICEの不法移民取り締まり活動を妨害しようとして(ICEはオフィスが攻撃を受けた際に市警に出動を依頼したが、到着したのは2時間後だったと批判している)おり、起訴される可能性がある」と発言。

 ニューサム氏はこれを受け、「逮捕するなら、してみろ」と挑発。

 トランプ氏はニューサム氏を逮捕すべきか記者団に尋ねられた際、「私がトムならやるだろう。素晴らしいことだと思う」と語った。

 デモが4日目を迎えた6月10日、取材中のジャーナリスト数人が非殺傷性のゴム弾などを被弾して負傷はしてはいるものの、現地時間10日正午現在で死者は出ていない。

 米国のテレビでは燃え上がる自動運転の「ウェイモ」や黒煙ばかり映し出され、デモの暴徒化がセンセーショナルに報じられているが、デモ隊と郡・市警察との衝突はそれほど激しいものにはなっていない。

 ロサンゼルスの抗議デモに呼応してサンフランシスコ、ニューヨーク、フィラデルフィア、オースティン、首都ワシントンなどでも大勢の人が抗議デモを繰り広げている。