(英エコノミスト誌 2025年6月7日号)

 

相互関税を発表し得意満面のトランプ大統領(4月2日、写真:AP/アフロ)

前編「世界経済のリバランス狙う大統領、米国人の過剰消費の指摘には一理あり」から読む

 経常収支の危機が来たら、一体どんなことになるのだろうか。

 外国人が保有する62兆ドル相当の米国資産は企業や個人の、それこそ何億という数のバランスシートに分かれて計上されている。

 その3分の1は株価や不動産価格と同じように継ぎ目なく評価額を引き下げることができない債務証券で、その債務証券の5分の2は政府が発行したものだ。

 また、米国の債務はそのほとんどがドル建てであるため、少なくとも額面の金額では必ず返済されると考えていい。

関税は病気そのものと同じくらい筋の悪い解決策

 だが、外国人投資家が必須と考える実質利回りの水準を米国はもうもたらすことができないと見なされると、米国資産の評価額がすでにかなり高い今の水準から大幅に引き下げられる恐れが出てくる。

 債券も不動産も株式も、そしてドル自体も強い売り圧力にさらされるだろう。

 大幅なドル安と米国の債券・株式の下落が起きれば、米国は対外資産に対する対外債務の比率を小さくすることでバランス調整を強いられる。

 金融が引き締められ、それを受けて消費が抑えられ、経常収支は正常な状態になる。

 そのような急激な調整がいかに不快なものになるとしても、だ。

 米国にとっての、ひいてはグローバル経済にとっての問題は、そのような大きな代償を払うことなく米国の対外債務に潜む不安を取り除けるか否かだ。

 トランプ氏の解決策は、言ってみれば跳ね橋を上げるようなものだ。

 関税を導入すればモノの価格が上昇して生活水準が下がり、消費が抑えられる。

 資本移動の障壁――トランプ氏の税財政法案にはその最初の兆しが埋め込まれている――を設ければ国内金利が押し上げられ、国内の貯蓄が促される、というわけだ。

 だが、この解決策は病気そのものと同じくらい筋が悪い。

 米国民は貧しくなるし、外国人投資家が得るリターンを危険にさらすことから、バランス調整で回避するはずだった暴落そのものを招いてしまう恐れがある。

 今年4月、トランプ氏が世界各国に「相互」関税を発動すると発表した後に起きた短期間の相場急落は、危機で生じうる変化の予告編だったとギャニオン氏は話している。