
医薬品業界で時価総額が国内トップクラスの中外製薬。営業利益率が47.5%(2024年)という収益性の高さは、医療用医薬品に特化した研究開発への経営資源の集中から生み出されている。この「収益と研究開発の好循環」は、どのような財務戦略の下で実現したのか。
同社の財務戦略の要諦、そして“攻め”の戦略を実行するためのファイナンス人材の在るべき姿、リーダーに求められる資質について、CFO(最高財務責任者)を務める谷口岩昭氏に聞いた。
「患者中心」の価値観で生み出す高品質医薬品
――中外製薬の足元の業績は非常に好調です。株価も上場来高値を更新し、日本の医薬品業界では時価総額トップクラスです。こうした強さの背景には、どのような要因があるのでしょうか。
谷口岩昭氏(以下、敬称略) 当社は、医療用医薬品の研究開発と販売に特化した事業を行っている企業です。そこに集中するため、技術革新と研究開発に最大限の経営資源を投下しています。
医療の現場で患者さんの病気を治すため、高い品質の医薬品を提供することに全精力を注ぐ。この「質へのこだわり」が当社のカルチャーであり、製品の競争力の源泉となっています。
同時に、医薬品の研究開発にあたっては、「患者中心」の価値観を貫いています。患者さんが何に困っているか、まだ十分に満たされていない「アンメットニーズ」を当社の社員が常にリサーチしており、困り事に応える薬を開発することを目指しています。
一つの医薬品の研究開発は、10~15年のスパンで考えなければいけない長期のプロジェクトであり、莫大な投資も必要です。そのためターゲットの選定は非常に重要ですが、必ずしも販売数のみを重視し、想定市場の大きな薬の創出だけを狙っているわけではありません。
たとえ少量でも、希少疾患のように、困っている患者さんがいる病気を治す薬であれば、開発する意義はあります。そうした付加価値の高い医薬品の研究開発こそ、当社の目指すところです。