菅谷幸乃さんたちが作った本『未来をすくえ! 地球温暖化について』の9、10ページ(写真:菅谷幸乃さん提供)

気候変動危機への対応で、「個人の行動」にスポットライトが当たっている。政府や産業界だけでなく、私たち一人ひとりも行動を環境配慮型に変えていくプレーヤーだ。日々の暮らし方を変えるのは容易ではないが、「行動変容」に乗り出す人は少しずつ増えてきた。自分の生活を整えたうえで一歩踏み出し、さらに他者への促しに乗り出す――。そんな「行動変容」の現場を追った。

(益田美樹:ジャーナリスト)

小学3年生「温暖化対策は楽しい」

 東京都内の小学3年生のあるクラスで3月、児童による手作りの本の発表があった。本のタイトルは『未来をすくえ! 地球温暖化について』。全16ページ。表紙には、赤く変色した地球が大きくレイアウトされ、「地球温暖化」の文字がギザギザの枠で囲まれている。

「…このように、地球温暖化対策は『楽しさ』や『快適さ』をもたらします。『我慢して節電しよう』ではなく、『楽しいから節電しよう』という目標を掲げるのが大事です」

 発表者が1枚いちまいページをめくりながら紹介する読み聞かせ。学期末のリラックスしたお楽しみ会の時間だったが、クラスメートは静かに耳を傾けた。

『未来をすくえ! 地球温暖化について』の表紙(写真:菅谷幸乃さん提供)

 発表者は「自然係」の児童3人。定期的に自然について調べたことを紙にまとめ、クラスで発表するのがこの係の役割だ。その延長線で、学期末に総まとめとして本を作った。1カ月かけて完成させた労作だ。

 係の1人だった菅谷幸乃さんは「情報が分かりやすかった、という感想が聞けました。わかりやすい言葉にしようと工夫していたので、うれしかった」と笑顔で振り返る。

 幸乃さんは、自然係の設置をクラスに提案した当人だ。「(地球温暖化の防止に向けて)行動してもらえたら。みんなに、もう少し自然のことを自分の暮らしに結び付けてほしい」と言う。
 
 そんな幸乃さんは、母・幸子さんから大きな影響を受けている。

「ゼロエミッションを実現する会」には行動を起こす人たちが全国から集まって知見を共有している(写真:益田美樹)

 幸子さんは「文京区ゼロエミッションを実現する会」のメンバーで、環境問題の勉強会を開くなど他者への働きかけを続けてきた。環境に関心を持ったのは中学生のころ。オゾンホール問題やチェルノブイリ原発事故を知り、世界が大変なことになっている、自分は大人になるまで生きられるのか、と不安になったことがきっかけだったという。脱炭素の取り組みに加わったのは、2022年。環境団体のメーリングリストで参加の呼び掛けがあり、「参加する」のボタンを押した。

「気候変動には危機感を持っていたものの、具体的に動いてなかった。だから、その呼び掛けに『そうか、自分の街に働きかけることで状況を変えることができるのか』と。自分が何かできるならうれしいですよね」