イーロン・マスク氏はトランプ大統領とともに退任会見を開いた(写真:AP/アフロ)

イーロン・マスク氏がトランプ政権から離脱した。マスク氏が率いた、いわゆる「政府効率化省(DOGE)」は、大規模な人員カットや強引な支出削減などで世界中に混乱を巻き起こした。だが、マスク氏が去っても乱暴にチェーンソーを振りかざすDOGEの猛威は収まりそうにない。後任として、マスク氏以上にイデオロギー色が強い保守系人物の名前も取り沙汰されている。

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)

 世界一の富豪であり、トランプ米大統領の「ファースト・バディ」を自認してきたイーロン・マスク氏。1月のトランプ氏就任以来、いわゆる「政府効率化省(DOGE)」を率い、連邦政府の無駄を1兆ドル削減すると豪語してきたが、目標額に遠く及ばないまま5月末、任期を終えると表明した

 トランプ大統領と共に臨んだ退任会見でマスク氏は、自身の「特別政府職員」としての任期は終わっても、DOGEは時と共により強くなるだろうなどと発言。強引な削減で突然連邦職員が職を失ったり、途上国で生命の危機に繋がりかねない支援が止まったりするなど、マスク氏のDOGEは国内外で多数の人々の反感を買ってきた。

 会見でマスク氏は「DOGEは仏教のようなもので、『人生の在り方』」であるという奇妙な持論も披露した。

 マスク氏は更に、DOGEが今後も政府の「無駄や不正」の削減を続けると具体的な数値を示しながらDOGEの功績を誇示した。だが、突然本筋から外れ、トランプ氏による大統領執務室のいわゆる「金ピカ改修」が「素晴らしくないか」と問いかけた。3月には絵画を増やしたり、テレビのリモコンまで金箔を施したりした大統領執務室が公開されている。

 トランプ大統領はマスク氏のヨイショに「あの鷹には24カラットの金(が使われている)」などと満足そうに微笑みながら天井を見上げた。DOGEにより、生活の糧(かて)である職や資金を奪われた人たちがこのやり取りをどう受け止めたかは、想像に難くない。

 2人は会見で、今後もあくまで良好な関係を継続するとアピールした。だが、マスク氏の退任表明直前くらいまで、主要欧米メディアは相次ぎ「マスクはどこへ消えたのか?」と問いかけていた。政府内でのマスク氏の存在感が薄まったという論調が目立った。

 マスク氏は、大統領就任式でナチスを彷彿とさせるジェスチャーで猛批判された。連邦職員の大量解雇をあざけるかのようなチェーンソー・パフォーマンスも行うなど、自ら炎上も誘発してきた。