
静岡市に本社を置く鈴与グループのルーツは、清水港を拠点に初代の鈴木与平が米を江戸に運ぶ廻船問屋としてスタートした1801年までさかのぼる。以来200年以上にわたり、祖業の物流事業を手がける鈴与に加え、鈴与商事、鈴与建設、鈴与自動車運送の4社を中核に事業を拡大してきた。株式上場している情報事業主体の鈴与シンワート、食品事業や航空事業なども含め、グループ企業の数は140社、売上高は5000億円超に上る。
現在、鈴与グループの代表取締役会長を務めるのが8代目の鈴木与平氏だ。同氏は東京一極集中が止まらない中、地方創生のキーワードとして「交流人口増」を挙げ、その一助として2008年に立ち上げたのが地域航空会社のフジドリームエアラインズだった。この航空事業の意義や今後の戦略などについて鈴木氏に話を聞いた。
鈴与グループに根付く「共生(ともいき)」の精神
──創業から200年以上の歴史を刻んできた鈴与グループですが、グループで共有する考え方に「共生(ともいき)」があるそうですね。これは社是とはまた違うのでしょうか。
鈴木与平氏(以下敬称略) 私の祖父である6代目鈴木与平が社長をしていた昭和初期に、椎尾弁匡(しいお・べんきょう)さんという増上寺(東京都港区)の法主もされた仏教学者が「共生運動」を始められました。
椎尾さんが提唱された「一切衆生は我等の友である。一草一木も共生の絆である」の思想に祖父が共鳴し、戦前までは、就業後に社員が自発的に集まって、椎尾さんの考え方について勉強会も開いていたようです。
その後戦時下となり、勉強会は自然消滅してしまいましたが、私が日本郵船への就職を経て鈴与に入社してみると、現場社員から管理職まで、あちこちから「共生(ともいき)」という言葉が聞こえてきました。一度は消失してしまったかに見えた言葉が、まだ息づいていたことに感動を覚えたものです。
そこで椎尾さんの教えを現代的に解釈し直し、“きょうせい”ではなく、あえて“ともいき”と呼ぶようにしました。社是とまでは言いませんが、この言葉がわれわれの精神的なよりどころであることは間違いありません。